1.2 [移乗動作の要素]
移乗動作を考えるにあたっては、以下の視点 から考えることが必要です。
・本人の状態および能力
・介助者の能力
・福祉用具類
・環境
・これらを総括して「生活のありよう」を考えます。
・本人の能力
当然のことながら、本人が自分で移乗できることが目標です。ですから、本人の状態を改善し、また、個々の身体特性にあった移乗方法をきちんと伝達することが大切です。その上で、移乗の自立に不安定さや危険が生じそうなときは次の方法を考える必要があるでしょう。また、すべて自分でできなくとも、自分で可能なことは自分で行う、介助者に協力するということができれば介助移乗であっても介助者の負担は軽減します。
本人の能力にあわせた移乗方法を選択することが必要であって、誰でも同じ移乗方法をするということはどこかに無理が生じます。
また、日常生活における移乗動作は訓練ではありません。身体機能を維持することはとても大切なことですが、その意味で訓練要素を移乗動作に含める場合には十分なアセスメントが必要です。ついつい訓練要素を強調して、がんばらせたり、多少無理をしてやらせてみたり、危険な移乗動作になっていないか確認しましょう。
・介助者の能力
家族介助者の場合には、基本的な知識がないという前提の元に考えるべきです。また、ヘルパーなど介護を専門に行っている人であっても、個々人の特性に合わせた移乗介助方法を十分に獲得し得ていない場合が多いことも事実です。このようなことから考えると、比較的容易に獲得できる技術体系が求められているともいえます。
どのような介助者であっても上述したように力まかせで移乗介助するのではなく、合理的で自分の身体を守れる介助方法を採用すべきだといえます。個々の介助者の能力に応じて移乗方法を変更することもよいでしょうが、介助者が変わるたびに移乗方法が変わるということも決してよいことではありません。特に複数のヘルパーなど専門的な介助者が関わるような場合には、すべての介助者が一定して行える方法にしなければなりません。このような意味では移乗介助方法に関する徹底した普及活動が必要をなるでしょう。
・福祉用具類
移乗動作に福祉用具を使用すると、自立して行う場合でも介助で行う場合でもずいぶん容易に、しかも安全に行えるようになります。しかし、福祉用具は目的にあわせて選択し、状況に応じて使い方を変更する必要があります。これらの知識と技術を獲得できれば福祉用具は大きな効果を発揮します。
状況に応じた機器の選択とその使い方を覚えることはさほど困難なことではないでしょう。本書および付属するCD/ROMを参考に、また実際の場面でさらに工夫を加えながら、より快適な移乗方法を見つけていきましょう。
・環境
居住環境を整えれば移乗も楽になるということばかりではなく、本人の能力を最大に利用するためにも、また福祉用具を利用するためにも環境や使用する福祉用具にいろいろな要素が求められてきます。ベッドには昇降機能がある方が移乗しやすい、とか、車いすのアームレストがはずれないとこの移乗用福祉用具は使えない、ということが起きてきます。移乗動作全体の中で、住環境を整備し、使用する福祉用具の仕様を考えるということが必要になります。
・生活のありよう
上述した4っつの要素はそれぞれに関連しあっています。例えば、本人の状態が変化すれば必要となる介助者の能力も変わりますし、使用する福祉用具も変わるでしょう。したがって、移乗方法を考えるにあたってはこれらを総合的にとらえる必要があります。さらに、すべては時間経過とともに変化しますから、絶えず観察し、アセスメントしなければならないということになります。
また、移乗動作は生活のありように関わってくることは当然です。どのような生活をしているのか、目指しているのかを考えながら、最適な移乗方法を考える必要があります。
1.3 [移乗動作の分類]
移乗は以下のように分類されます。
・形態からは;
・立位移乗:立ち上がって移乗する方法
・座位移乗:座ったままの姿勢で移乗する方法(横方向、前後方向)
・持ち上げ移乗:人力やホイストなどによって、持ち上げて移乗をおこなう方法
本報告書では座位移乗と持ち上げ移乗を中心に記述します。
部分介助にはいろいろな段階があります。見守りだけでよい場合から、ほとんど介助者に依存する場合まで含まれます。一人一人の状況に応じた臨機応変の対応が要求されます。
1.4 [移乗介助を行うにあたって]
これまで述べてきたことも含めて、実際に移乗を行うにあたって大切なポイントは;
・本人にとって
・身体の状態にあった方法であること
・能力を活かすことができること
・適切な着座姿勢がとれること
・介助者にとって
・技術や経験、能力に応じた方法であること
などであり、このような条件が整えば、本人・介助者双方にとって安全・快適で無理なく容易な移乗動作が行えます。そのことによって本人だけでなく、介助者も含めて生活の広がりが期待できるでしょう。
毎日の生活の中では、本人または介助者のコンデイションが変化することがあります。朝はできても夕方にはできなくなることもあります。また、環境が変わることによってできなくなることもあります。したがって、いくつかの移乗方法を確保しておくことは生活を安定したものにするためにも大切です。
移乗を実際におこなう場合にはまずは計画をたてることが大切です。途中で慌てることがないように、手順をひとつひとつ追っていき、すべてが整っているか確認します。安全で効率的な移乗のためには不可欠です。また、移乗後の行動も考え、無駄のないようにします。
・本人・介助者全体の動作を事前に確認します。
・使用する用具類の配置を確認しておきます。
また、介助が必要な移乗動作は本人と介助者が一緒になって行うものです。まずは相互に声を掛け合って、心の準備も含めて用意が整ってから同時に開始すべきものです。移乗の際には、絶えずコミュニケーションをとっておこないましょう。介助の場合には、これからおこなうことをひとつひとつ伝えて安心させます。そのことによって、本人からの協力も得られ介助が容易になります。