原著論文 第3巻 第2号 2008年3月

Henry Dargerの生涯における絵画活動の意味 print
大瀧  誠 OT, MS※1 小平 憲子 OT, MS※1
梶田 博之 OT, MS※1 加藤 雅子 OT, MS※1
中島  綾 OT, MS※1 中前 智通 OT, MS※1
森川 孝子 OT※1 野田 和恵 OT, PhD※2
※1 神戸学院大学総合リハビリテーション学部 医療リハビリテーション学科
※2 神戸大学医学部保健学科

作業療法では,絵画を治療的に用いる.絵画は,絵を描く構想から制作および作品を鑑賞するに至るまでの過程を,対象者と空間と時間を共有する.
Henry Darger[2][3]は,1892年にイリノイ州シカゴ市内で生まれた.Henryは81歳で亡くなり,Henryの遺品を整理していたNathan Lerner氏によって,15,000頁にも及ぶ「非現実の王国で」の原稿と数百枚の絵が発見された.
本研究の目的は,絵画活動が,Henryにとってどのような意味があったのか,様々な資料から考察することである.
Henryの絵は,アウトサイダー・アートの代表例として呼ばれ,一般的に精神障害者の描いた絵という認識である.しかしHenryは,決して精神障害者ではなく,物語に対する思いや情熱が社会的行動を喚起していたと考えられる.つまり,物語の完成のために,現実的に仮説・想定し,問題解決行動を取った結果であり,常に内部評価を行っていたと推察される.またHenryが物語を執筆し始め,物語に対する自らの感情や衝動などを言語的に表現することの難しさがあり,絵画で補完することにより物語が完結することができた.そして,安堵の表情を浮かべ,「好きなようにしてくれ」と言い残すことができたものと思われる.
絵画活動は,描き,創作することにより自己完結し,充足感に満たされるのであろう.

キーワード:Henry Darger,絵画,作業活動