3.吊具の選び方

吊具は本人の身体機能、介助者の能力、使用場面などに応じて使う手順を考えて選択します。

使用場面に応じて吊具を変えることもよくあります。いくつかの吊具を準備しておくことも必要です。

ホイストの本体と吊具は別売りです。ホイストの種類に関わらず、ほとんどの吊具が使えますので、ご自分の状態にもっとも適した吊具を選択しましょう。

3.1 本人の身体機能に合わせる

A)体格:吊具のサイズは7段階に分かれているものから一つしかないものまであります。

・大は小をかねませんので、洋服の大きさを合わせるように吊具もサイズを合わせます。

B)股関節固定力:股関節の固定力によって、吊具の種類を変えます。

1章で記述した方法で問題なく吊れる場合→トイレ用ベルトつきを試してみましょう。

・臀部が図のように落ちた姿勢になるようなら、この吊具は使えません。

[姿勢の調整]

 臀部が落ちる場合には姿勢を調節すると、落ちなくなることがあります。

・脚のベルトを長く(あるいは肩のベルトを短く)すると、姿勢が寝てきて臀部が落ちにくくなります。

トイレ用ベルト付きで問題ない場合

ベルトを使わずにトイレ用吊具で吊り上げてみましょう。

前図のように臀部が落ちなければこの吊具が使えます。

1章の吊具が使えない場合

シート型しか使えない可能性があります。

C)頭の支持

 頭を自分で支持できるときは頭支持がない吊具が使えます。

・脚分離型やシート型ならローバック・タイプ、トイレ用吊具、ベルトタイプなども使える可能性があります。

・頭の支持ができない場合は脚分離型やシート型はハイバック・タイプになります。

・トイレ用やベルト型はほとんどの場合使えません。

D)股関節の痛みや可動域の制限

股関節を屈曲したり、内外転したり、内旋したときに痛みがあったり、可動域に制限がある場合はいろいろな工夫が必要になります。痛みや制限の程度によって、吊具の種類、使い方が変わります。

E)下肢切断の場合

・断端の長さが問題になります。

・閉脚用(ソルフィット)もしくは下肢切断用(Guldmann)の吊具を用いて、閉脚で吊ることが基本ですが、断端長が短いと吊れないこともあります。

・離断などの場合には、離断側をまわす脚部のストラップは両脚の間に通して、その上で長さを揃えてハンガーにかけます。

・シートタイプを用いる場合もあります。(ただし、座位での着脱はできなくなります。)

・閉脚で吊っていても、お尻が落下する場合には、吊具のお尻(仙骨のあたり)部分を縫い合わせて落下を防止する方法もあります。

F)円背の場合

・トイレ用は使用しない。脊椎を後わんさせる方向に力が加わるので。

・基本的に脚分離型を使用して、トータルにコンタクトさせます。

・骨粗そう症の場合も同様に、できるだけ受ける面積を広くして体重支持面を広くします。

『サイズが合わない場合には』

・特注オーダーをする。

1) 自作吊具ではPL法の点から問題が残る。

2) どのような吊具が必要とされているかをメーカーに知ってもらう良い機会になる。

・特注オーダーする場合には;

1)全体的な割合で(一定割り合で)大きくとか小さくとか指示する場合。

2) 縦方向を伸縮させたり、横方向を伸縮させたりして、縦横の割り合いを変えて指示する場合。

3) 吊り上げた時のホイストの揚程や脚のクリアランスなどについても十分に検討して発注すること。

4) サイズの決め方(市販品)はGuldmannでは一定割り合いでの対応しているようです。

5) NEBAは縦・横別々に対応しているようです。

3.2 介助者の能力

本人に合っている吊具でも介助者が着脱の介助ができなければ意味がありません。

介助者が確実に操作できるか確認することが必要です。

一般的には脚分離型がもっとも介助力を必要とし、ベルト型がもっとも容易ですが、本人の身体機能や使う場面、使い方によって異なりますから必ず実際に確認しましょう。

3.3 使用場面

どこで使うかによっても吊具の種類は変わります。

ベッド−車いす

車いす上で着脱する場合は、脚分離、トイレ用、ベルト型を使います。

頻度高く移乗する場合や、介助者の能力が低い場合にはシート型を使って敷き込んだままにすると、きわめて容易に移乗介助ができます。ただし、吊具にしわを作らないように注意したり、車いす上で滑りやすくならないか確認することが必要です。

トイレ

どこからトイレに行くか、どこで脱衣するかなど全体の手順によって、介助者の能力によって使用できる吊具が変わります。

a)ベッド上からポータブルトイレへ行く場合

・ベッド上で下半身を脱衣し、吊り上げてトイレに移乗しますから、座位で着脱できる吊具が使えます。

b)車いすでトイレに行って移乗する場合

・吊り上げた状態で脱衣したいときは、トイレ用ないしはベルト型吊具に限定されます。

・おむつも併用している場合にはトイレ用吊具では一般的には吊り上げた状態でおむつを着脱できません。パッド程度までです。

・便座に着座後、立位を取らせたり、プッシュアップして臀部を上げられる場合には座位で着脱できる吊具が使えます。

・これらのことができない場合には、一度ベッドに戻って脱衣し、下半身裸の状態でトイレまで移動することになります。

入浴

・手順と介助者によって吊具を選択します。

・臀部の洗い方、浴槽内での姿勢の安定が選択時のポイントです。

・代表的な例を以下に示します。脱衣は一般的にはベッド上で行いますので、ベッドで裸になってからの手順になります。

a)シャワーキャリー型吊具で浴室まで移動し、その上で洗体し、そのまま浴槽に入ると、洗い場から浴槽内での作業が容易になります。

・座面の角度が大きくついていますから、浴槽内で比較的安定しています(浮力によって身体が不安定になりにくい)。

・ベッドとシャワーキャリー間の移乗方法を考えておく必要があります。特にシャワーキャリー上では吊具の装着が難しくなることが多いので注意が必要です。

・座面がシート状のものはお尻を洗いにくくなりますから、そのための手段を考える必要があります。トイレ用吊具で吊り上げて洗うなどの方法があります。

・浴槽から出て、キャリー部分と結合させるときには、キャリー部分の前を持ち上げるようにして座面を降ろしてくると確実に結合することができます。

浴槽から出てベッドまで戻る間、水滴が落ちます。

b)シャワーキャリーで浴室まで移動し、吊具で吊り上げて浴槽に入る

・座位で着脱できる吊具(脚分離型、トイレ用、ベルト型)が使えます。

・この吊具で洗体する場合は、シャワーチェア上で吊具を取り外して洗体します。

・浴槽内では浮力で吊具と身体との相対的な位置はずれますから、吊り上げるときに注意が必要です。

・シート型吊具を使用する場合は、シャワーキャリー上に吊具を敷いておいてからその上に移乗します。

・洗体時にお尻が洗いにくくなります。

・浴槽内で吊具の位置が多少ずれても安全に吊り上げることができます。

・浴槽から出たあと、濡れた吊具をつけたまま移動しますと、水滴が落ちたり、身体が冷えることがあります。

・車いすなどを併用して、浴槽から出たら吊具をはずし、以降は別な乾いた吊具を使用するとよいでしょう。

『入浴時の体幹コントロールの方法−浮力の対応−』

1) 膝を押さえてコントロールする方法。

(方法1)

・介助者は浴槽のわきに膝をつき、手のひらを広げて片手で本人の両膝を押す。

・押し加減でお湯に浸かる具合を調節する。

・左右への倒れについては、左右の膝の押し加 減を調節することによって、浴槽のコーナーへ本人の身体を持っていく(導く、押し付ける)。

・長い時間支えつづけることは、介助者にとって負担となる。

・片手でコントロールできない場合には両手でのコントロールになるが、介助者の身体をひねることになるので負担はかなり大きい。

2) 腿の下に棒をつっぱって押さえる方法。(つっぱり棒の中のスプリングもステンレスであること。)または、イレクターで組む方法。

(方法2)

3) 壁にアンカーが打ち込めれば、ベルトを胸に回してアンカーフックにかける。または、ベルトを背中から肩を回してフックにかける方法もある。(方法3)

『質問コーナー』

・浴槽の中でお尻は下ろすのか(吊具は落とすのか(緩めるのか))?

・吊り具は張ったままにしておくようにとの指導がある場合もあるが?

1) お尻を下ろさないと(吊具を落とさないと(緩めないと))肩まで浸かれない。

2) 吊具に張力をかけていても、吊具と身体の相対的な位置はずれてしまうので、基本的には下ろす。

4.吊具の使い方

4.1 姿勢の調節

・吊り上げたときの姿勢は調節できます。

・吊り上げたあとの体幹の角度、股関節の屈曲角度などは調節できます。

a)体幹を寝かせる

 上半身を支える吊具のストラップの長さを長くします。脚部を支える吊具の長さを短くしても同じです。

4.吊具の使い方

4.1 姿勢の調節

・吊り上げたときの姿勢は調節できます。

・吊り上げたあとの体幹の角度、股関節の屈曲角度などは調節できます。

a)体幹を寝かせる

 上半身を支える吊具のストラップの長さを長くします。脚部を支える吊具の長さを短くしても同じです。

b)股関節の屈曲角度を小さくする(股関節を伸展する)

・一般的に体幹を寝かせるようにすると、股関節の屈曲角度も小さくなります。

・体幹を支える部分を臀部に近い吊具を使用すると、その効果がより大きくなります。