移乗の技術・考え方と方法
第3章 座位移乗

 この座位移乗は私たちがもっとも推奨する技術です。この検討委員会においてももっとも多くの時間を割き、皆で検討してきた方法です。
座位移乗は体重の上下移動がほとんどないので、きわめて安全な方法です。これまであまり注目されてこなかったのは、

車いすなどにアームレストがはずれるものでなければならないなどの条件があることや、移乗用の道具類を使用しますのでその使い方がよくわからなかったというようなことが原因になっているのかと推察されます。

 この方法の利点としては、
(1) 本人・介助者双方にとって安心で安全な移乗ができる、
(2) 介助者に力が不要、
(3) 介助者と本人の体格差があっても従来の方法より可能性が大きい。
(4) 再現性があり、技術の習得が比較的容易、
(5) 立位移乗と比較して、自立移乗の可能性が高い、
 などが上げられます。

 一方、欠点としては、
(1) 移乗用具が必要、
(2) 使用できる車いすに制限があるなど環境の整備が必要、
(3)記2項目を整備するには費用がかかる、
(4)褥創がある場合など、適用上の条件がある、
 などの欠点があります。

 しかし、車いすの条件としては、アームレストがはずれ、ブレーキ・レバーが座面より低いということですから、よく考えてみればごく当然の条件であり、この程度のことはもっと早期に解決していなければならなかったことだともいえます。介護保険が始まってから、在宅の場合には車いすはレンタル対象であり、座位移乗に使用可能な車いすは若干高めではありますが、レンタルされていますので、レンタル替えによって対応が可能です。

  また、座位移乗に必要となる移乗用具は極端に高価なものではありません。ヘルパーなど介護職が一人一人持っていた方がよい用具だといえます。
 褥創に関しては、座位移乗が臀部で滑って移乗するという方法である以上、十分な配慮が必要なことであり、この方法を採用してもよいか、事前に医学的な検討が必要です。
 また、環境条件で大きく影響する要因に、ベッドのマットレスの問題があります。エアマットレスや柔らかいマットレスの場合には、座位移乗はやりにくいといえます。エアマットレスを使用している場合には、緊急の空気抜きを利用するなどして、移乗に先立って空気を抜いておいた方が容易に移乗できます。一般的に座位移乗は端座位が保持できる程度の人が対象ですが(端座位が保持できなくとも介助者の慣れや工夫によって、あるいは介助者を二人にすることによって利用できますが)、端座位をとるときにはエアマットレスは空気を抜かないと安定した姿勢がとれません。このことを考えれば、エアマットレスを使用していても端座位時には空気を抜くという作業があると仮定すれば問題はなくなります。また、エアマットレスは褥創予防効果は高いといえますが、安易に使用するものではなく、一度エアマットレス使用の是非を検討し、最適な蓐そう予防方法や用具の選択を検討しててみることが必要な場合もあるでしょう。

 この章では座位移乗について記述しますが、座位移乗においては共通して以下のような条件があります。

【条件】
・車いすのアームレストがはずれるか、跳ね上 げられること
・車いすのブレーキ(ロック用レバー)が座面より飛び出ていないか、
 はずせること、
・座位保持が可能なこと。
 座位保持が不可能な場合でも利用できる場合が多いが、介助者に慣れ
 が必要となる。
・臥位から端座位までの手順が確立していること。
・車いすのレッグサポートがはずれればよりよい。


3.1 座位による
自立移乗
 
立位移乗が不安定になったら、座位移乗にしたほうが安全です。立位移乗では介助が必要になっても、座位移乗なら自立できる可能性もあります。

1)自立した座位移乗の条件
 座位移乗を自立するためには以下のような条件が必要です。
・移動経路に障害(物、溝、段差)がない。
・座位が保持でき、お尻を持ち上げて横に移動 できるか、お尻歩行
 (左右臀部を交互に持ち上げて移動)、あるいは、お尻の滑り移動
 (横あるいは前後)が可能。

 この条件をベッド−車いすの移乗で考えれば、
(1) 車いすのアームレストがはずれるか、跳ね上げられること
 (横移動の場合)、

      


( 2) 車いすのブレーキ(ロック用レバー)が座面より飛び出ていないか,はずせること(横移動の場合)、
      

(3) ベッド−車いす間にすき間がないこと(あるいはトランスファーボー
 ドの使用で埋められること)、

      

(4) 移乗先の高さを同一あるいは低くできること、