3.7アームレストがはずれない車いすの 移乗介助

この方法はCDROMに具体的な手順が収録されています(3.2M)

これまでアームレストがはずれる車いすを利用した座位移乗について記述してきました。介護保険になり、在宅の場合には車いすはレンタルで利用できますから、少し費用が高くなりますが、車いすを変えればこの方法を採用することが可能です。しかし、どうしても車いすを変えることができない場合があります。

車いすのアームレストがはずれない場合の方法を以下に記述しますが、この方法はこれまで記述してきた方法と比較すると決して楽ではありませんし、本人と介助者の体格に大きく影響を受けます。しかし、上手にできるようになると、これまで抱え上げて移乗介助してきた方法と比較すると圧倒的に楽に移乗介助することができます。

この方法はあくまでも非常時の方法として習得してください。原則は体重を持ち上げずに滑らせて移乗する方法か、後述するホイストで吊り上げて移乗する方法を採用しましょう。

1)条件

(1) 座位保持が可能なこと。
(2) レッグサポートがはずれればよりよい。
(3) アームレストははずれなくとも可能だが、はずれればより容易。
(4) 車いすのアームレスト長さが介助者の体格と関連する(詳細は後述)。
(5) 車いす→ベッドが基本。ベッド→車いすは仙骨座りになる。
ただし、介助者としてはベッド→車いすの方が動作を覚えやすい。

2)車いすからベッドへの移乗

・使用用具
車いす:アームレストがはずれなくともよい。
ベッド:昇降機能付き
介助用ベルト:前述

スライディング・シート:ここでは「ノルディックスライド」ショートサイズ(アマノ)を利用したが、「マルチ」(ラックヘルスケア)などの輸入品のほかに、国産の類似品があります。

滑り止め:介助者の足下だけの場合、車いすも含めて敷く場合、マットレスの下に敷く場合など状況に合わせて大きさを選びます。DIYショップなどで売られている家具の滑り止めで充分でしょう。

トランスファーボード:前述

(マットレスがエアマットレスなど柔らかく、沈み込んでしまう場合)

【手順】

(1) 助用ベルトを本人の腰に巻きます。手順については【介助ベルトの締め方】を参照ください。

(2) 車いすの位置を整えます。

ベッドと平行か若干斜めにおきます。前後位置はベッドに寝かせる場合を想定して都合のよい位置を決めます。

片マヒの場合など下肢に機能差がある場合は、健側がベッド側になるようにします。

(3) 車いすの下(介助者が足をおく位置)にすべり止めを敷きます。

車いすが作業中に動いてしまい、不安なときは事前に敷いておきます。

絨毯など摩擦係数が大きい床の場合には不要です。介助者の軸足が滑らないように、また車いすが動かないように敷くものです。

(4) フットレストを跳ね上げます。

(5) 本人の腰を前に引き出します。

可能な範囲で車いす座面の前よりに座らせます。

膝や下腿だけを引くのではなく、骨盤から丁寧に前に出します。

このとき、背もたれに寄りかからなくとも 座位保持ができれば、あとの作業が容易になります。

(6) 介助者はベッドに座り、トランスファーシートを臀部に敷きます(端に座ります)。

エアマットレスを使用しているなどマットレスが柔らかく、沈み込んでしまう場合は下にトランスファーボードなどを置きます。エ アマットレスはエアを抜いた方がよいでしょう。

(7) ベッド高さを調節します。

介助者の下腿長と比較して高すぎると、移動量が不足し、本人のお尻がアームレストにぶつかります。最初はどれくらいの高さがよいかわかりにくいでしょうから、健常者を相手にして練習し、自分にとって最適な高さを見つけておきます。

だいたい車いす座面と同等の高さにします。

(8) 本人の片大腿を介助者の大腿の上に置きます。介助者はベッドと直角になるように座ります。

本人の大腿は可能な範囲で深くした方があとで身体を引き上げるときに楽です。

介助者は可能な限り本人に近づきます。基本的な位置は介助者の大腿がベッドと直角になる位置ですが、より近づいた方が介助者のお尻の動き(横方向)が大きくなり、本人のお尻がアームレストを越えやすくなります。

(9) 可能ならば本人の体幹を前掲させ、介助者の大腿上に手を置かせます。

(10) 片手を脇の下から差し込み、もう一方を上肢の上から本人の介助用ベルトをつかみます。

(11) 本人の腰を浮かせるように引き上げます。

介助者の大腿部をてこの支点にして、本人のお尻が浮くようにします。

大きく浮き上がらせる必要はありません。本人のお尻が車いす座面から浮き上がることと、移乗先の座面より高くなることが必要です。

お尻はアームレストを越えて移動するのではなく、アームレストの前を移動しますから、高く持ち上げる必要はまったくありません。

本人の体重が大きいときは、できるだけ前傾させると、てこの支点である介助者の大腿と本人の重心との距離が小さくなって、比較して小さな力でお尻を浮かせることができます。

(12) 介助者は足をけって(膝を伸ばして)、臀部を平行に横に滑らせます。

この介助者の臀部の移動量がアームレスト長さと比較して短いと、本人のお尻がアームレストにぶつかります。

足の向きに気をつけましょう。足の向きが外旋していると移動時に介助者が腰をひねる動作をしがちになります。ベッドと直角ないしは若干内旋している状態にし、介助者はお尻を平行に横移動させることが大切です。腰をひねってはいけません。

「介助者の横移動の学習方法」

スライディングシートの上に座り、介助者だけでお尻を横に移動させる練習をします。足の位置、足に力を入れる感覚を練習します。

(13) 本人をベッド上に下ろします。

腕は本人の腰を浮かせた状態を維持し(振り回さないこと)、臀部を横に動かせば、介助者の大腿が斜めになっているので、自然に本人のお尻はベッドの上にきます。そのときに静かに着座させます。

介助者は腕の力で本人を振り回してはいけません。特に移乗介助を力まかせで行ってきた専門職は、ややもすると本人を腕の力で振り回します。ここで行っている方法は力まかせの介助ではなく、あくまでも力学的に合理的な方法を行っていますので、力を入れすぎないようにしましょう。力まかせの介助は力のない人に伝えることができませんし。いつかは自分の体をこわす原因になります。

「介助者の下腿が短い場合の工夫」

介助者の下腿が短く、ベッドに座ったとき大腿が水平に近くならない(膝関節が90度程度まで曲がらない)場合は、介助者の横移動量が不足し、本人のお尻がアームレストをクリアできなかったり、本人を介助者の大腿の上に安定して引き上げることができなくなります。また、介助者が横移動したとき、ベッドからずり落ちそうになります。

このような場合には、介助者の足を見かけ上長くすると、容易になります。足を長くする方法としては適当な台を置くことですが、電話帳を縛って滑り止めでくるんだり、適当なものを準備します。

台の高さは介助者の大腿が水平に近くなる程度の高さです。

両足とも高くした方がやりやすいでしょう。

「ベッドマットレスが動いてしまうときの工夫」

介助者が横移動すると、ベッドマットレスも動いてしまいます。

このようなときには、ベッドのマットレスの下に滑り止めを敷いておきます。介助者が移動する範囲内だけでも効果がありますが、マットレス幅で1m程度はあるとよいでしょう。

(8) 本人の片大腿を介助者の大腿の上に置きます。介助者はベッドと直角になるように座ります。

本人の大腿は可能な範囲で深くした方があとで身体を引き上げるときに楽です。

介助者は可能な限り本人に近づきます。基本的な位置は介助者の大腿がベッドと直角になる位置ですが、より近づいた方が介助者のお尻の動き(横方向)が大きくなり、本人のお尻がアームレストを越えやすくなります。

(9) 可能ならば本人の体幹を前掲させ、介助者の大腿上に手を置かせます。

(10) 片手を脇の下から差し込み、もう一方を上肢の上から本人の介助用ベルトをつかみます。

(11) 本人の腰を浮かせるように引き上げます。

介助者の大腿部をてこの支点にして、本人のお尻が浮くようにします。

大きく浮き上がらせる必要はありません。本人のお尻が車いす座面から浮き上がることと、移乗先の座面より高くなることが必要です。

お尻はアームレストを越えて移動するのではなく、アームレストの前を移動しますから、高く持ち上げる必要はまったくありません。

本人の体重が大きいときは、できるだけ前傾させると、てこの支点である介助者の大腿と本人の重心との距離が小さくなって、比較して小さな力でお尻を浮かせることができます。

(12) 介助者は足をけって(膝を伸ばして)、臀部を平行に横に滑らせます。

この介助者の臀部の移動量がアームレスト長さと比較して短いと、本人のお尻がアームレストにぶつかります。

足の向きに気をつけましょう。足の向きが外旋していると移動時に介助者が腰をひねる動作をしがちになります。ベッドと直角ないしは若干内旋している状態にし、介助者はお尻を平行に横移動させることが大切です。腰をひねってはいけません。

「介助者の横移動の学習方法

スライディングシートの上に座り、介助者だけでお尻を横に移動させる練習をします。足の位置、足に力を入れる感覚を練習します。

(13) 本人をベッド上に下ろします。

腕は本人の腰を浮かせた状態を維持し(振り回さないこと)、臀部を横に動かせば、介助者の大腿が斜めになっているので、自然に本人のお尻はベッドの上にきます。そのときに静かに着座させます。

介助者は腕の力で本人を振り回してはいけません。特に移乗介助を力まかせで行ってきた専門職は、ややもすると本人を腕の力で振り回します。ここで行っている方法は力まかせの介助ではなく、あくまでも力学的に合理的な方法を行っていますので、力を入れすぎないようにしましょう。力まかせの介助は力のない人に伝えることができませんし。いつかは自分の体をこわす原因になります。

「介助者の下腿が短い場合の工夫」

介助者の下腿が短く、ベッドに座ったとき大腿が水平に近くならない(膝関節が90度程度まで曲がらない)場合は、介助者の横移動量が不足し、本人のお尻がアームレストをクリアできなかったり、本人を介助者の大腿の上に安定して引き上げることができなくなります。また、介助者が横移動したとき、ベッドからずり落ちそうになります。

このような場合には、介助者の足を見かけ上長くすると、容易になります。足を長くする方法としては適当な台を置くことですが、電話帳を縛って滑り止めでくるんだり、適当なものを準備します。

台の高さは介助者の大腿が水平に近くなる程度の高さです。

両足とも高くした方がやりやすいでしょう。

「ベッドマットレスが動いてしまうときの工夫」

介助者が横移動すると、ベッドマットレスも動いてしまいます。

このようなときには、ベッドのマットレスの下に滑り止めを敷いておきます。介助者が移動する範囲内だけでも効果がありますが、マットレス幅で1m程度はあるとよいでしょう。

【失敗の要因】

・介助者の大腿がベッドと直角にならず、車いす側から遠ざかっている。

 →ストロークが不足し、本人の臀部がアームレストにひっかかることがある。

・介助者が臀部を横に滑らせるのではなく、臀部を持ち上げて移動してしまう。

 →介助者の体力を使う。横に滑らせる動作を練習させる。

・介助者が腰をひねるようにする。

 →介助者の腰痛の元。膝を伸ばして臀部を横に滑らせる要領を練習させる。

・介助者が本人を抱え上げてしまう。

 →男性介助者に多い。力任せの介助に慣れているとよくやる。

 →余分な力を使わないことがこの移乗方法の特徴。

・本人の臀部がアームレストにぶつかる。

 介助者のお尻の移動量が不足している。

 本人の初期位置を可能な限り座面の前にする、ベッド高さを下げてみる、移動を大きくする等の工夫をしてみる。

・マットレスが動いてしまう。

 →マットレスの下に滑り止めを敷く。

・介助者の大腿の上に載せるための引き上げができない。

 →こつを教える。大腿を支点として本人の腰を浮かせる要領。

 →介助者の下腿長が短い場合は、ベッド高さを下げる。大腿が水平になるように。