[失敗の原因]

図のようにお尻がはみ出している場合は、次のような原因が考えられます。

)吊具の装着手順が正しくなかった。

→特に上述した、の手順を再確認してください。

B)吊具のサイズが大きかった。

→サイズを小さくしてもう一度試みてください。

C)本人の股関節の固定力が不足している。

→脚分離型吊具は不適応です。シート型を試みることになります。【P13参照】

講習会では2台のリフトで同時に吊り、一方をお尻がはみ出た雑な吊り方でおこない、もう一方はお尻が覆われたていねいな吊り方でおこないます。そして、以下のそれぞれの違いを確認させます。

1) お尻の覆われ方の違い。

2) 股関節の角度の違い。

3) 全体の姿勢の違い。

4) 快適さの違い。

家族に対しては、正しく装着されている時のお尻の線と吊られている時の全体の姿を見て覚えてもらう。もし、その姿勢にならなかったらどこかが間違っている。

講習会では、正しい吊り姿勢の後で、お尻を落としたしわのある不適切な吊り姿勢を体験させ、どのような違い(股関節の屈曲角度、臀部の落ち具合、腹部への圧迫感)があるのかを介助者には体験させる。

1.3 車いすに着座させる

ホイストの利点の一つに車いすなどへ着座したとき、姿勢をきちんとコントロールできるということがあります。

以下の手順を覚えて、最適な着座姿勢を作るようにしましょう。

なお、着座して姿勢がきちんとしていないときは、再度吊り上げてやり直します。人手で持ち上げて姿勢を修正しないようにしましょう。

1)膝押し着座

車いすのブレーキをかけます。

座面の少し上まで降ろしてきます。

スイッチを図のように親指と人差し指でもち、親指を下降ボタンの近辺におきます。


両膝を背中側に押し、車いすの前輪が浮き上がるようにします。


電動車いすなど前輪が上がらない車いすの場合は、押す力を少し強めにします。

スイッチを押して降ろしますが、臀部が座面に着くにつれて膝を押す力を緩めて前輪を静かに着地させます。

後ろに倒れてしまうのではないかという不安感を感じる場合もあるが、本人はホイストに吊られているので、倒れ込んでしまうようなことはないことを教ええます。

[失敗の原因]

・膝の押し方が不足すると腰が深く入りません。

・膝を左右アンバランスに押すと、座ったとき骨盤が左右に傾きます。

・着座につれて膝を押す力を緩めますが、急にゆるめると、車いすがばたんと着地し、身体が前方に振られます。

2)キャスター上げ着座

電動車いすや、転倒防止装置の付いている車いすではできません。

・車いすのブレーキを解除します。

・車いすのレッグサポートをはずすか、フットプレートを跳ね上げておきます。

・股関節が開いてしまう人の場合には、レッグサポートのフレームに引っ掛かったり、外側へ足が落ちてしまうこともあります。

・介助者は車いすの後ろに回って、キャスター上げをします。

まず、足や下腿が座面やレッグサポートに引っかからないようにし、座面が大腿部に沿うようにします。

着座させるとき、背中が車いすのバックレストを滑って降りるようにします。

着座につれて、キャスターを降ろしていきます。

・直線レールの場合には、車いすに対して前後方向で(レールが前後を通るライン上で)作業します。

・電動車いすや後方転倒防止装置付きの場合には、キャスターを上げることが困難なために

1) できるだけ体幹を立てて吊るようにする。

2) 膝を強く押す。

3) リクライニングが可能であれば、バックレ ストを倒しておいてからおこなう。

[失敗の原因]

・背中と車いすのバックレストが離れていると、 腰が深くなりません。

・身体と車いすのバックレストが平行でないと 骨盤が傾きます。

・キャスターを降ろす速度が速いとばったんと 着地し身体が前に降り出されます。

・股関節が大きく開いているときは両膝をバン ドなどでそろえておく必要があります。

[「前方からの膝押し着座」を優先する理由]

1) レッグサポートが邪魔になることが多い。

2) 介助者が本人の後側で介助することを嫌が る人が多い(不安を感じるなど)。

3)取っ手上げ着座

吊具の中央にとっての付いている吊具で行えますが、上述した二つの方法ができない場合にご利用ください。

・座面の少し上まで降ろします。

・取っ手をつかみ、降ろしながら取っ手を上に引き上げます。

このとき、背中が背もたれにぶつかるように引き上げてください。

・他の方法でどうしても上手くいかない場合に用いる方法です。

1) 引き上げる時に、かなり力を要する。

2) タイミングが難しい。

3) 吊具を引っぱることで身体と吊り具の相対的な位置関係がずれるので、再度やり直した場合に正しい姿勢で吊り上げられないことが多い。

[失敗の原因]

・取っ手を引き上げるタイミングが遅いと、お尻が座面についてから引き上げるようになり、深く座れません。

[失敗の原因]

吊具が深く差し込まれない→吊り上げたとき臀部が落下しやすい

吊具の中央が背骨と一致していない→吊り上げたときからだが傾く.

介助者は前に回って膝をつき、吊具の脚部を装着します。

介助者の身体を痛めない、誰にでも比較的簡単に学習できる介助方法は現状ではホイスト以外ないといえるでしょう。しかし、ホイストは手間も、時間も、お金もかかります。

このとき、片手の手のひらで本人の大転子あたりを内側に押さえ、片手で吊具の下側ストラップをもって手前に軽く引きます。

吊具がお尻をきちんと覆うようにしてください。

[失敗の原因]

吊具がお尻を覆っていない→吊り上げたとき臀部が落下する

左右とも同じことをします。

両方の吊具が同じ長さであることを確認してください。

もし均等でなかったら、慣れない場合は最初からやり直します。(脚側の吊具を引っぱって修正しようとすると、本人のお尻を前方へ引きずりだしてしまい骨盤を後傾させてしまうことになる。)

・プロに対しては、以下のもう一動作を加えます。

(家族にこの方法を実行する能力がある場合や、股関節の固定力が小さく臀部が落下しやすい場合にも加える。)

1) 吊具が股関節をしっかりと覆うために、脚部の吊り具の下側のストラップを膝裏くらいのところを小指から人さし指にかけて持つ。

2) 親指を伸ばし本人の膝に当てる。

3) 膝に当てた親指を支点にして引き絞るようにしながら、吊り具が臀部の下に滑り込むような動作を行う。(親指は膝から離さないこと。)

大腿を軽く持ち上げて、吊具を通します。

またの内側から吊具を出したら、両手で布を張るようにしてしわを作らないようにします。吊具は膝側ではなく、股の付け根側にくるようにします。


股関節の外転をしない方がよいような身体機能の場合には特にこの段階でしっかり吊具を引っ張っておきます。

できたら大腿の上に吊具を広げておきます。


・講習会やヘルパーに対しての指導の場合には、「膝をついた介助者の腿の上に本人の足をのせるように」指導する。

理由は;

a)介助の際には必ず膝をつき腰を下ろすことによって介助者自身の身体を守ることを習慣

化させる。(中腰での作業をしない。)

b)大腿部の下に空間ができ、吊具を通しやすくなる。

・家族に対しては手間が多くなるので、基本的にはここまでは教えない。ただ「吊り具を脚の下を通してください。」とだけ伝える。

両側同じことをしたら、再度吊具の長さを確 認します。


[失敗の原因]

・長さが異なっている→吊り上げたとき、身体が左右に傾く

・吊具を交差させ、ハンガーに掛けます。

このとき、必ずハンガーを片手でもって吊具をかけます。ハンガーから手を離すとハンガーが回転して本人の顔などにぶつかることがありますし、恐怖感を与える原因になります。


・すべての吊具をハンガーに掛けたら、スイッチを押して吊り上げます。

このとき、スイッチは少しずつ押して、様子を見ながら注意深く吊り上げます。

・怖がっている場合や嫌がっている場合には、ここから先が問題になります。

1)「これから吊られていくぞ」ということをあまり意識させないこと。(気をまぎらわせること。)

2) スキンシップでいくかアイコンタクトでいくかを相手によって選択する。

スキンシップ:身体に触れながら、余分な世間話などをしながら進めていく。

アイコンタクト:本人の前に膝をついて腰を下ろし、本人の目を見ながら操作を行う。

3) インチング(スイッチを小刻みに押して、少しづつ上げ下げすること)操作をおこなう。

ただし、人によってはインチング操作を嫌が る場合もあるので、その時には吊具にある程度張力がかかるまでは一度に上げてしまう。その後インチング操作で吊り上げていく。

・股関節疾患を持っていたり、この吊具で大丈 夫かどうか明確でない場合には、関節の具合や顔の表情などで痛みがあるかどうかを確かめながら少しづつ吊り上げていく。

・吊り上げたら、上腕部を前に引き出します。

この作業は吊り上げられたとき、吊具で上腕部が左右に圧迫されているのを解除する動作です。短い時間しか吊り上げていないときは省略してもかまいませんが、初めて吊り上げたときや圧迫感を訴える場合には必ずこの作業をしてください。


吊り上げたら、お尻を確認してください。

図のようにきれいにお尻が覆われていたら

OKです。